累代飼育の限界?について:Shiho的な考え
先日の日記のレスにacroさんより以下の質問がありました。
<acroさんんからの質問>
私は、国産オオクワガタをメインに10数年ブリードをしています。
累代による血が濃くなって起こる弊害を防ぐため、基本的にF3になったら血縁関係のない系統とアウトラインにしてCBF1にするようにしています。
しかし、せっかく血を入れ替えたにもかかわらず、CBF1にした途端に、やたらにメスが多く羽化(酷いときはオスの4倍くらいメスが羽化)したり、羽化不全が発生したりして、むしろ逆効果な結果になってしまうことが何度かありました。
F3の時にはこれと言った問題は発生していなかったにもかかわらずです。
この様な結果になった系統は、兄弟に大きな個体が羽化していても、それ以上、累代を続けない様にしてきましたが、
もし、そのままF2・F3とブリードした場合、「やたらにメスが多く羽化する、羽化不全が発生する等」は継承されてしまうのでしょうか?
気にせず累代を続けても問題はないのでしょうか?
累代が進むと「メスが多く羽化する」や「羽化不全が多くなる」等と言う話は聞いたことがありますが、全く逆なこの現象がなぜ起こるのか長年の疑問です。
Shihoさんは、この様な現象が起こったことはありませんか?
ご意見を是非お聞かせください。
なるほど、累代飼育の問題ですね。
実は累代飼育については2008年頃にその時よくレスを入れてくれていたカシンさんという方と話し合った経験がございます。
その時のお話に、その後現在までに感じたことを加えて、「累代飼育の限界」についてあくまでShihoの考え方になってしまいますが、ご紹介して見たいと思います。
文章的には過去の日記記事と重なる点が多いと思いますが、ご理解&ご了承頂ければ幸いです。
「累代飼育の限界」
【参考画像:良型血統のヘラクレス・ヘラクレス】
【参考画像:良発色タイプのパプアキンイロクワガタ】
<私:Shihoの過去の経験談と考え>
私は良型血統のH・ヘラクレス(角太タイプ)とパプキン(良発色タイプ)、オオクワ(アゴ太タイプ)を持つ機会に恵まれ飼育したことがあります。
一度良血統の個体を入手してしまうと、どうしてもその血統を固定化させ更によい個体を羽化させたくなります。そのためにはよい素質をもったもの同 士、いわゆる兄弟同士で掛け合わせるのが良いとされています。
しかし良い素質を受け継ぎやすい分、血が濃くなってしまうというリスクも背負います。
これもF5辺 りまでなら何とか影響も薄いのですが、F6以降になってくると次第に影響が出始めます。私はこれをヘラヘラやパプキンで体験しました。
ヘラヘラの場合はかなりの極太タイプだったので、あまり外部の血を入れたくなかったのもあって、純粋に兄弟のみのインライン交配でF5までは普通に大丈夫でした。
産卵も羽化もそこまで気にする事は無かったです。ただF6を過ぎたあたりからし次第に産卵数が減少したり、奇形(羽化不全や蛹化不全)が目立つようになりました。
やはり純血のインラインブリードではF5位までが限界なのか、と感じた私は当時気に入っていた血統のあるパプキン(パプアキンイロクワガタ)で試してみる事にしました。
そのパプキンの血統はかなり良い色(♂モスグリーン、♀バイオレットもしくはパープル)の系統でした。パプキンは羽化してからの成熟~交尾~産卵~幼虫期間~羽化までのサイクルが他の種と比べても段違いに早い事もあって、累代飼育の経過を見るには最適でした。
まず、F4位まで色合いの良い親虫で煮詰め、インラインブリードによってほぼ色合いを固定化させました。
その後、固定化したものを枝分かれさせ、それぞれの累代を伸ばし、イトコやハトコの段階で掛け戻すようなやり方で行いました。
この方法は結構効果がありまして、その後もその方法を繰り返して、そこそこ累代が続きました。
掛け戻した時点で 純粋なインラインブリードではなくなるので、F値でカウントするのは無理があるかもしれませんが、最初の血統からカウントしたと考えれば、累代でいうと15代近くはいったと思います。
しかしそれでもやはり最終的には全く産卵しなくなり羽化不全がかなり多発しました。いくら累代を枝分かれさせても累代を行うのは難しいのだろうかと感じました。
自然界においてはクワガタ&カブトムシの同血統の同兄弟同士が交尾を行う可能性はかなり低いと思われます。仮に1代偶然的にあったとしても2代連続で続いている事はほとんどないのではないかと考えます。
毎回違う血統が交配しているのですから、それゆえ血の濃さによる障害もないのでしょう。
ここで私の考えです。本当にただの考えです。確証は全くありません。根拠もありません。
もし1~2代でも同兄弟同士で交配してしまったら、少なからずその個体はやはり外見上では見えなくても遺伝子的に弱くなっているのではないでしょうか?
それゆえ、F4辺りから慌てて血の入れ替えを行ったとしても、既に見えない所で障害が出ているのではないかと・・・。
しかもその交配相手がワイルド個体ではなく、同じくある程度累代のあるクラスだとすれば、その時点でその相手も何かしら遺伝子的に弱くなっているのではないかと・・・。
血統的には何もつながりのない個体だとしても、それぞれの個体同士が遺伝子的に弱ってきている血統であるために、その後の累代飼育で早い段階で障害(羽化不全や蛹化不全、産卵数減少)が出てしまうのではないでしょうか??
・・・・・・・・・・・と、ここまで書いていたのですが、少し調べてみました。
すると、近親交配に関するデータに「劣性遺伝子」と「優性遺伝子」なる単語が目につきました。
簡単にいうと、近親交配による血のタブーは「劣性遺伝子」を多くもっている為に障害が出て来てしまうということらしいです。
ただ、累代を重ねれば必ずしも「劣性遺伝子」が多くなっていくわけではないようです。逆に「優性遺伝子」を伝える可能性もあるらしいです。
しかし「劣性遺伝子」を持った相手同士が交配して、それが次世代に伝われば、その影響が出てくるということらしい。
原点となる親同志が「劣性遺伝子」を持っていれば、それは累代を重ねれば重ねるほど「劣性遺伝子」が多くなり、そして伝わりやすくなり、影響が出始めるということらしいです。
そう考えると、もしかすると上記で私が思っていたように、累代が1~2代進んだ個体がもし「劣性遺伝子」を多く持っていれば、それはその後血の入れ替えを行ったとしても、相手によっては「劣性遺伝子」が更に多くなる可能性があるかもしれないということなのではないでしょうか??
しかしネットで調べてみると、F20以上累代を重ねていても影響が全く出ていないという方もいらっしゃいました。こういう方は累代を重ねても「劣性遺伝子」が出て来ていない、あるいは影響を及ぼすほど「劣性遺伝子」を持っていないということになるということでしょうか・・・。
う~ん、調べれば調べるほどに難しいです。
調べると意見は星の数ほどあり、皆様のご意見も様々です。
しかし、少なからず共通していることは、やはり累代飼育を続けると少なからず「劣性遺伝子」の影響が現れる可能性が高くなってしまうということだと感じました。
相手になる個体が「劣性遺伝子」を多く持っているかどうかなんて、見た目からは全然分からないと思います。
それゆえ、「劣性遺伝子」を持っている可能性が少しでも少ないと思われるワイルドに近い累代の浅い個体を相手候補に選ぶことが良いのかもしれません。
でもそうすると、累代で強調したいと考えている親の特徴は受け継がれにくくなってしまうと考えられます。まさに一長一短です。
しかし落ち着いてよく考えてみると、私達人間は自身の都合で良型や極太を受け継がせようと、インラインの累代飼育を考えますが、それは自然の理に反することになっているのかもしれません。
難しい問題ですよね・・・。
<♀が多く羽化する問題>
またもう一つの「累代を進めると♀が多くなる」の質問ですが、う~ん。正直こちらも明確な答えは難しいです。
しかし♀の偏りは私にも経験があります。
血の入れ替え後の累代個体ではなく、純潔の累代F3~4程度だったのですが、サバゲノコギリとユーロミヤマ(ケルブス)で経験しました。
サバゲノコギリは30頭程いて、2♂28♀
ユーロミヤマ(ケルブス)は20頭いて、0♂20♀
という結果でした。
その時は「何でこんなに偏るんだ?」と思いました。
勝手な理由付けとして、もしかすると、「♀殺しが多いから♀の方か多く羽化するのか?」などと思っていましたがそこまでは深く追及はしませんでした。
サバゲノコギリはいつも♀の羽化が多いのは事実ですが、ケルブスに関してはこの時以外は普通にバランスよく♂♀羽化してくれましたので、たまたまなのかな~とスルーしてしまった事があります。
それ以外は極端な♀の偏りはなかったと記憶しております。
これは勝手な推測ですが、「血の濃さによる根絶を恐れた種の本能的感覚が、♀を多く産ませることによって、少しでも多く産卵し、絶滅を防ごうとした防衛反応ではないのだろうか」・・・・・・・・・・・と私的に考えてしまったのですが、全く根拠はありません。
やはり分からないというのが正直なところです。
如何でしたでしょか?acroさん。
結局、どれも明確な答えは出せず、ごまかしたみたいな回答になってしまったようで本当に申し訳ございません。少しでも参考になれば幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
飼育日記担当:Shiho
※ここでご紹介させて頂いた考え方や飼育方法はあくまで私Shiho個人のやり方&考え方であってそれを押し付けるものでは御座いません。あくまでもご参考程度にご覧頂ければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。
9 Comments »
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お世話になっております。 ご返答ありがとうございます。 過去の記事について存じておりました(うろ覚えですが) 「かなり累代が進んでから血を入れ替えても、既に個体が弱くなっており、弱い者同士を交配しても、弱い子供にしかならない・・・。」の様な感じで記憶しておりました。 それもあって私は、一般的には早いと思われる?F3で血を入れ替えることにしました。 自然界では、ほとんど近親交配は起こらないので、1~2代でも兄弟同士で累代が進むと「劣性遺伝子」が多くなり、目には見えなくとも障害を持ってしまうと考えますと、私がF3で血を入れ替えても既に手遅れだった可能性があるのですね…。 オオクワガタは、限られた地域の限られた木に生息しているため、自然界で近親交配はあたりまえに起こっているため、近親交配に強く、逆に、広い地域に生息していて、飛行能力も高いノコギリクワガタの様な種は自然界で近親交配は起こりにくいので、近親交配に弱いとの話を聞いたことがあります…。 ???何が正解なのか難しい問題ですね。 相手が生物である以上、「これが絶対に正解!」と言う回答は簡単に出るものではないのでしょうね。 ありがとうございました。 今後とも、よろしくお願い致します。
Comment by acro — 2016年5月8日 @ 12:57 AM
累代飼育、我が家でもそのうち問題になってくるかもしれません。 現在のところは、やっと自宅での産卵からの羽化第1号のヤマトサビ(♂♀の判断ではお手数おかけしました。ご指摘通り、♂で間違いないようです(汗))が出たばかりです。 そのヤマトサビクワガタに加えて、自宅にて飼育・繁殖中のオガサワラチビクワガタ(父島産5頭母島産5頭♂♀不明)・トカラノコギリクワガタ(ホワイトアイ♂1頭♀2頭ノーマル♂1頭♀1頭)・アマミシカクワガタ(♂1頭♀1頭)が、いずれも既に採集禁止になって数年がたっており、WDが全く入らない以上、最終的には全て血縁関係ありになってしまう事、確実です。 自宅での繁殖が上手くいったら、なるべく他の血統の個体を入れて、少しでも血統延命を図ってみる実験に挑戦しようと思います。 それぞれが飼育情報自体が殆どない状態での手探りの飼育になりますので、その節は是非お知恵をお貸しください。 今後とも宜しくお願いします。 追伸)「くわカブの森」計画ですが、植樹は6月上旬に決まりました。完成したら、写真など月夜野さん経由でお送りしますね。 良く調べたら、ミヤマやノコギリは普通にいて、オオクワガタも少ないながら存在している(昆虫ショップで販売されていました)、との事ですので、期待膨らみます。
Comment by Puffin — 2016年5月8日 @ 1:05 PM
acroさん レスありがとうございます。 そうですね、おっしゃる通り、どう何が正解なのは疑問が多く定かではないように感じます。 本当に難しい問題だと思います。 私も的確な回答が出来ないようで大変心苦しのですが、こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願い致します。 ご質問ありがとうございました。 飼育日記担当:Shiho
Comment by tsukiyono — 2016年5月8日 @ 5:02 PM
Puffinさん レスありがとうございます。 おっしゃる通り、オガサワラチビクワガタ、トカラノコギリ、アマミシカクワガタ、ヤマトサビクワガタ等は今後は特に貴重になってくるでしょうね。 あれこれ考えても、もう既にWDで手に入らない種類ならば、少しでも今の内に複数の他の血統を手に入れたり、あるいは今ある血統の分岐血統を育て上げたりするなどの用意しておいた方がよいのかしれません。 最初の分岐点を少しでも多く広げて、血の凝縮を防ぐしかないのかもしれません。 しかし血を薄くさせて交配をさせるには、他の血統も含めて結構数を飼育していかなければならないのも大きな問題となると考えます。本当に難しい問題ですね。 「くわカブの森計画」順調そうで何よりです。 ミヤマやノコギリ、オオクワなど集まって来てくれると本当に嬉しいですね! 6月上旬ならば、すでにミヤマやノコギリなども出ていると思います。植えた木がまだ樹液を出すような感じでなければ、まずはバナナトラップなどを仕掛けてみるのも面白いかもしれませんよ。 近くにクワガタが生息していれば、すぐ周りに強烈な樹液を出す木がなければ、バナナトラップでも集まってくる可能性があると思いますので。 写真など、是非是非送って頂ければ嬉しいです! その時を楽しみにお待ちしております。 飼育日記担当:Shiho
Comment by tsukiyono — 2016年5月8日 @ 5:24 PM
Shihoさん いつも楽しく拝見させて頂いております。 久々の質問となりますが今回は2点ございます。 1点目はヘラヘラの産卵に関してですが、現在複数の産卵セット(衣装ケース)を組んでおります。 その中の一つがメスの潜りが悪かったので1サイクル目は3週間見ようと思っていたら約2週間経った昨日産卵セットの中でブンブン飛び回っておりました。これは既に生む場所が無いと考え割り出して良いのでしょうか? 2点目はクワガタの蛹化目前の暴れに関してです。 ニジイロクワガタ等の暴れは有名で我が家でもレッド・グリーン・ブラックの3系統全てで大暴れ(菌糸ボトルが全てマット化)からの蛹化羽化となっており苦笑い状態です。まぁニジイロはサイズとか気にしていないので暴れても全然平気なのですが、問題はタランドゥスやギラファです。 タランドゥスやギラファも蛹化目前の暴れがかなり酷く、特にタランドゥスが青カビ発生の為全頭ボトル交換しましたら大暴れの末いきなり蛹化…折角の大型期待の幼虫がかなり小さくなってしまいました。ボトル交換が蛹化のスイッチを押した可能性が高いですがShihoさんは実際暴れが何日続いたらマットに交換しておりますか?その基準やマット交換の際に気をつけること等ございましたら教えて下さい。 宜しくお願い致します。
Comment by takeru — 2016年5月9日 @ 10:23 AM
takeruさん レスありがとうございます。 takaruさんの今回の返答については、5/10の飼育日記内にて書いております。 宜しければそちらをご覧頂ければ幸いです。 よろしくお願い致します。 飼育日記担当:Shiho
Comment by tsukiyono — 2016年5月10日 @ 12:57 AM
メス、オスどっちの血を入れるか迷いますよね
メスがいっぱい増えて、その内のどれか良い遺伝子を持ってる気がしますね
増え過ぎて飼育場所や費用など出せればい累代していけるのかなと考えてませ
Comment by P — 2021年11月28日 @ 5:56 AM
Shiho様
いつも勉強させて頂いております。
数年前の記事であり、また恐縮ではありますが
コメントさせてください。
>簡単にいうと、近親交配による血のタブーは「劣性遺伝子」を多くもっている為に障害が出て来てしまうということらしいです。
劣性(潜性)、優性(顕性)は、どちらの性質が現れるか(表現型)であり、
劣った性質、優れた性質という意味ではないので、念のためコメントさせて頂きました。
https://www.inc-reliance.jp/science/65855
https://genequest.jp/glossary/recessive_inheritance
Comment by 瑯崎 — 2022年1月13日 @ 9:39 PM
瑯崎 さん
レスありがとうございます。
とても勉強になります!
情報のご紹介ありがとうございました。
飼育日記担当:Shiho
Comment by tsukiyono — 2022年1月14日 @ 7:52 AM